芥川龍之介 文放古
文放古 芥川龍之介  これは日比谷公園のベンチの下に落ちていた西洋紙に何枚かの文放古(ふみほご)である。わたしはこの文放古を拾った時、わたし自身のポケットから落ちたものとばかり思っていた。が、後(のち)に出して見ると、誰か若い女へよこした、やはり誰か若い女の手紙だったことを発見した。わたしのこう云う文放古に好奇心を感じたのは勿論(もちろん)である。のみならず偶然目についた箇所は余人は知らずわたし自身には見逃しのならぬ一行(いちぎょう)だった。—— 「芥川龍之介と来た日には大莫迦(おおばか)だわ。」!  わたしはある批評家の云ったように、わたしの「作家的完成を棒にふるほど懐疑的(かいぎてき)」で...
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