【掌編小説】咆哮するバックヤード ―六本木の星、精肉売場に立つ―|元宝 (一分間で学ぶ 成功者の教え)
スーパーの精肉部門のバックヤードは、常に十度以下に保たれている。 冷気に包まれたステンレスの作業台で、牛脂の混じった独特の匂いを嗅ぎながら、佐藤さんは鮮やかな手つきで牛モモ肉を捌いていく。白い衛生帽からはみ出た白髪混じりの揉み上げと、鋭い眼光。彼はこの精肉部門の「契約社員」だが、漂う空気感はどこかのアウトローな職人に近い。 「いいか、肉ってのは対話なんだよ。力でねじ伏せちゃいけねえ」 佐藤さんはかつて六本木で小料理屋を営んでいた。場所が場所だけに、客層は派手だったらしい。有名俳優や財界の大物が、彼の包丁捌きと威勢の良さを求めて夜な夜な集まっていたようだ。 「昔、巨人の松井が来たこ
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