【掌編小説】思い出のデミグラスソース|元宝 (一分間で学ぶ 成功者の教え)
近所の蕎麦屋の店先に、一枚の白い紙が貼られていた。 「店主健康上の理由により閉店いたします。長らくのご愛顧、ありがとうございました」 達筆なようでいて、どこか震える筆致。そのたった数行が、街の景色を塗り替えてしまう。出汁の香りが消えた路地を歩きながら、私は胸の奥にある、もう一つの「消えてしまった味」を思い出さずにはいられなかった。 東京、谷中。谷中銀座商店街の賑わいに接する「よみせ通り」にその店はあった。 創業五十四年。一階が店舗で二階が住居という、絵に描いたような昭和の二階建て一軒家。老舗洋食屋「キッチンマロ」。令和五年九月、多くのファンに惜しまれながらその歴史に幕を下ろした名店だ
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