【連載小説】数よ、わたしを導け:「1」の洗礼|元宝
坂道を登りきる手前で、朝倉憐は足を止めた。初夏の湿った風が、仕立てのいいシャツの襟を揺らす。振り返ると、視界の先には横浜港が広がっていた。青い海の上を滑るように進む白い貨物船。ガントリークレーンの赤い群れが、陽炎の向こうでキリンの群れのように佇んでいる。 「港が見える高台、ねえ……。ロケーションとしては百点満点だけど」 憐は小さく鼻で笑い、手元のスマートフォンに表示された地図と、目の前にある古い木造建築を見比べた。大正時代に建てられたという洋館は、風雨に晒されて味わい深いというよりは単にくたびれて見えた。 「数縁庵」と控えめに書かれた真鍮の表札が、辛うじてここが目指す場所で
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