樋口一葉 大つごもり
大つごもり 樋口一葉        (上)  井戸は車にて綱の長さ十二尋(ひろ)、勝手は北向きにて師走(しはす)の空のから風ひゆう/\と吹ぬきの寒さ、おゝ堪えがたと竈(かまど)の前に火なぶりの一分は一時にのびて、割木(わりき)ほどの事も大臺(おほだい)にして叱りとばさるゝ婢女(はした)の身つらや、はじめ受宿(うけやど)の老媼(おば)さまが言葉には御子樣がたは男女(なんによ)六人、なれども常住内にお出あそばすは御總領と末お二人、少し御新造(ごしんぞ)は機嫌かいなれど、目色顏色呑みこんで仕舞へば大した事もなく、結句おだてに乘る質(たち)なれば、御前の出樣一つで半襟半がけ前垂の紐にも事は缺くまじ、御...
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