藤原辰史:パンデミックを生きる指針——歴史研究のアプローチ
1 起こりうる事態を冷徹に考える2 国に希望を託せるか3 家庭に希望を託せるか4 スペイン風邪と新型コロナウイルス5 スペイン風邪の教訓6 クリオの審判 1 起こりうる事態を冷徹に考える人間という頭でっかちな動物は、目の前の輪郭のはっきりした危機よりも、遠くの輪郭のぼやけた希望にすがりたくなる癖がある。だから、自分はきっとウイルスに感染しない、自分はそれによって死なない、職場や学校は閉鎖しない、あの国の致死率はこの国ではありえない、と多くの人たちが楽観しがちである。私もまた、その傾向を持つ人間のひとりである。甚大な危機に接して、ほぼすべての人びとが思考の限界に突き当たる。だから、楽観主義に依り...
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