『講和の旗が翻るとき』 第三章|Jin Tonic
📘 第三章「教壇の異変」    秋が訪れた。東京の空気が、ようやく乾きはじめた頃だった。  鷲尾梨花は、教壇に立つたびに、足元の床がきしむ音に耳を澄ますようになっていた。それは、長く教職を離れていた空白を埋める時間であり、また、かつての教室とまるで違う緊張感に身を預ける瞬間でもあった。  児童の顔は素直だ。声もはっきりしている。だがその目の奥にある“何かを計っている”ような沈黙――それは、教師であるはずの梨花の方にこそ、問いを向けているようだった。    その日、職員室はざわついていた。  隣の三年生の担任、斎藤教諭が、突然「自宅待機命令」を受けたという。理由は示されなか
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