『講和の旗が翻るとき』 第二章|Jin Tonic
📘 第二章「帰還兵と未来」 風のない昼だった。東京の空には幾筋もの飛行雲が、鉛筆の線のように真っ直ぐ伸びていた。 鷲尾圭一はその線を見上げながら、霞ヶ関の庁舎の廊下を歩いていた。軍政庁第十局――再建計画局とも呼ばれていた――には、連日山のような書類が積まれ、会議室では「国体」と「忠誠」と「安定」が交互に叫ばれていた。 この日、圭一の机に届いたのは「青年育成令草案」。草案では、満十五歳以上の少年たちを「国家訓練団」に編入し、半年の集団教育を義務化するという内容だった。 「文部省からの原案だが、軍政庁としても全面協力を、ということです」 報告したのは、若い職
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