”夕化粧”が教えてくれた魔法|三條 凛花
ふわり。淡い紫の花が揺れていた。 松葉雲蘭だ。今年も出会えた。思わず口角が上がる。 すっと長く伸びた細い茎が繊細な印象を与えるその花は、去年もここに咲いていた。公園のベンチを縁取るように群生してそよぐ様子は、野の花とは思えないくらいうつくしい。 「自転車、コマ無しで乗れるようになったんやねえ」 彼女はしみじみと言った。 やわらかく細められた目は、息子に向けられている。 砂場遊びをするお友だちの元へ行かずに、公園に着いたその瞬間からずっと一人で走っている。 つやつやしたボディの赤い自転車に乗って、広場の奥まで向かっては戻ってくる。たまに誇らしげにこちらに手を振るので
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