『講和の旗が翻るとき』 第四章|Jin Tonic
📘 第四章「沈黙の国会」 十一月の風が東京の街を撫でていた。銀杏の葉はすでに黄色く染まり、朝の霞ヶ関通りでは、国家公務員たちのコートの裾が一斉に揺れていた。 鷲尾圭一は軍政庁庁舎の会議室に座り、黙って一枚の文書を眺めていた。 「非国的言動監視報告(第三週)」 そこには、名前、所属、言動の内容、推定影響度、そして「今後の指導方針」の欄があった。 「この資料、君にまで回ってきたのか」 声をかけてきたのは情報課長の矢田部純――元陸軍大将にして、庁内でも最も発言力を持つ人物だった。身なりは常に清潔で、軍帽の代わりに深く眉を寄せるのが癖のような男だった。 「我々
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