生きることの力強さと輝き。再演重ね備わってきたオリジナルミュージカルの風格…★劇評★【ミュージカル=生きる(市村正親・上原理生出演回)(2023)】|阪 清和 (Kiyokazu Saka)
 「生きる」。この物語が世界中の人々の心を打つのは、よく練られた美談だからではない。死を目の前にして偉業を成し遂げた英雄譚だからでもない。監督の黒澤明自身も橋本忍や小國英雄と脚本を立ち上げながら、いかにこの物語を美談のように感じさせないかに腐心したというから、やはり肝心なのは死の恐怖に抗いながら進んだ主人公の美しさではなく、人生の最後の最後に短いながらも確かに歩んだ主人公の力強さなのだ。つまりは、生きることの輝きなのである。2018年に世界で初めてミュージカル化されたことで、作品の持つ普遍的なペーソスはより増幅され、明確な目標を失いながらもがむしゃらに歩んできた戦後日本人の虚無感と焦燥
note.com